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海猫たちの小夜曲
第2章 絶望の始まり ~海色のグラスと小麦色の少女①~
 秀隆に犯されたショックで、翌日、連休明けのわたしの調子は最悪だった。
 寝不足で頭が働かないし、下腹部を中心に体のあらゆるところが痛い。
 もっとも、あたしの2‐Bのクラスは、あたしの絶望的な気分とは対照的に、朝から妙にそわそわした空気が漂っていた。
 どうやら東京から転校生が来るらしい。
 
 そのおかげで、クラスの子たちがあたしに関心を示さないのが、あたしにとっての救いだった。今のあたしの心は水がパンパンに詰まった風船のようなもので、下手にまわりからどうしたのかとつつかれたりすると、泣いたり、喚いたりして、あっさりと感情が爆発してしまうだろう。
 秀隆に、写真まで撮られているあたしにとって、それだけは絶対に避けなければならないことだった。

 先生の後について転校生の女の子が教室に入ってきたとたんに、クラスのほぼ全員から、感嘆を押し殺したようなため息が漏れた。周りの声につられて、あたしは顔を上げ、その髪の長い女の子を見る。
 女の私から見ても、明らかに清楚な美少女というやつだ。
 肌の色も白く、目鼻立ちも凛としていて、見た目からして、この田舎の町の女の子とは違う。

「高瀬遥です。よろしく。」

 その女の子はそっけなくあいさつを終えると、先生に促されて、あたしとは反対側の窓際の席に座った。
 休憩時間には、早速、気の早い女の子たちが高瀬さんの席を取り巻いて、男の子たちは、1年生や3年生までが廊下から遠巻きに彼女を見に来ていた。

「ねえ、高瀬さんって、東京のどこから来たの?」
「趣味は何?」
「水泳部入るんでしょ?もしかして、すっごく速いの?」

 そういうとりとめのない質問に高瀬さんはいちいち真面目に答えていたけど、皆の反応はいまひとつな感じだった。みんな、質問したのはいいけれど、高瀬さんの凛とした雰囲気に気圧されて、どう返せばよいかを判りかねているのだった。
 結局、高瀬さんがチヤホヤされたのは3日ほどで、後は潮が引くように彼女の周りは静かになった。

 男の子にすれば、高瀬さんはまさに高嶺の花で気の利いた話もできないし、女の子たちにしても、まるで共通の話題が見いだせなくて、親しくなるきっかけもないのだった。
 もっとも、当の高瀬さんはそういう周りの変化に動じるでもなく、静かに本などを読んで過ごすようになったのだが。

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