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海猫たちの小夜曲
第2章 絶望の始まり ~海色のグラスと小麦色の少女①~
 だけど、あたしはクラスの一隅で高瀬さんの姿を見ながら、全く別のことを考えていた。
 あの綺麗な女の子は、もう、男の子とセックスしていたりするのだろうか。
 あの白い陶器のような手で男の胸板をもてあそびながら、凛と締まった口を恥ずかしげもなく大きく開けて、怒張した男の子のペニスを咥えるのだろうか。
 そして、あの綺麗な顔を歪ませて破瓜の痛みに耐え、全てが終わった後に処女を捧げた男の子の胸に頬を寄せて、媚態を浮かべるのだろうか。
 あたしのように犯された絶望ではなく、愛している男と結ばれたことを悦びながら。
 あたしは、高瀬さんを見ながら、そんなとりとめのない思いに囚われていた。

 結局、その日の授業は何一つ頭に入らないまま、最後の6限が終わった。
 帰る支度をしていると、斜め前の席から、同じ水泳部の尾原文也が声をかけてきた。

「おーい、望海、今日は水泳部、出ねえの?」
「……出たところで、どうせ、今日もランニングと筋トレでしょ。」

 あたしは内心の憂鬱を隠して、努めていつものような口調で返事を返す。
 せっかく声をかけてくれた文也には悪いけど、まだ、5月になったばかりで、プールには入れない。それにこんな気分では、とてもじゃないけど部活で走り込みをしようという気になれない。第一、あたしは普段から、さほど練習熱心な部員ではなかった。
 この八潮津高校では、生徒は何らかの部活動をしなさい、というのが規則になっているので、あたしとしては、やむなく水泳部に籍を置いているだけなのだ。

 けれど、このまま家に帰って、夕食の席で秀隆と顔を合わせるのも嫌だった。
 結局、あたしはダイビングショップのバイトに出ることに決めて、文也に言った。

「あたし、今日はバイト行くよ。」
「やれやれ、『今日は』じゃなくて『今日も』だろ。はいはい、わかりました。せいぜい、労働の方をがんばれや。」

 文也が憎まれ口をたたいてきたので、あたしは文也の膝頭に軽く蹴りをくれてやった。
 実際は、文也と絡む元気もないのだけど、保育園以来の幼馴染の文也なんかに心配されてしまうと気安さのあまり何を口走ってしまうか、あたしにも自信がなかったのだ。

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