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海猫たちの小夜曲
第2章 絶望の始まり ~海色のグラスと小麦色の少女①~
 5月も半ばを過ぎると、うちの水泳部も、ようやく5月の末のプール開きにむけて動き出した。毎年恒例、水泳部員総出のプール掃除だ。

 さすがに、その日は、あたしもバイトを休んで掃除に参加していた。
 要は、グラウンド整備をサボる奴にグラウンドを使う資格はない、という理屈と同じだ。
 あたしのように、バイトにかまけて、あまり熱心に練習しない部員でも、掃除にすら参加しないで、プールを使うというのは気が引けるのだった。

 しかし、実際に屋外プールの掃除というものを体験したことのある人はわかると思うが、半年間、全く使用されていないプールは16歳の女の子にとって、かなりグロい光景だと思う。
 底に少しだけ溜まった水に藻がびっしりと繁殖し、ヤゴやら何やら昆虫の抜け殻と死骸が浮いている。しかも、そこに裸足で入って、デッキブラシで汚れを擦るのだ。
 去年はどこから忍び込んだのか、タヌキの死体が浮いていて、あたしたち水泳部員を恐怖のどん底に陥れた。

 今年は、さすがにタヌキの死体まではなかったけれど、それ以外は去年と同様の惨状で、あたしたちはデッキブラシで、必死にプールの床や壁を擦り上げていた。
 
 高瀬さんは、東京の私立高校だったらしいから、多分、室内のプールだよ。絶対、プール掃除でびっくりするよ。もしかしたら泣きが入るかも、などと女子部員たちは勝手なことを言い、面白そうに高瀬さんをちらちらと見ていたが、当の高瀬さんは、藻にも虫の死骸にも臆することなく、平然とブラシで壁を擦り上げていた。

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