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海猫たちの小夜曲
第4章 冷たい海 ~海色のグラスと小麦色の少女③~
 結局、あたしはバイトに出かける時間まで、ほとんど眠ることができなかった。
 少しでも体をシャッキリさせようと熱めのお湯でシャワーを浴びたが、問題は、体よりも情けない顔の方だった。洗面台の鏡には、明らかに泣いたことが分かる腫れぼったい瞼が映っている。
 あたしは出かける時間ぎりぎりまで冷やしたタオルを目の上に当て、何とか見られる顔にしようとしたが、どれほど効果があったかは怪しいところだろう。

 
 だけどダイビングショップで恐る恐る顔をあげたあたしに、先生は、いつもと同じように微笑みかけてくれた。
「今日も朝からありがとう。今日は結構、時間がかかるかもしれないけど、バディの方、よろしく頼むよ。」
 先生はそういうと、ウエットスーツに着換えたあたしと一緒にショップの前にある砂浜に出る。
 その日は、カメラやら目印のフラッグなど、持っていく携行品がかなり多くて、いつものように砂浜から泳いでエントリーするのではなく、小さな船外機のついたボートで沖のサンゴ礁の手前まで行ってエントリーするという段取りになっていた。

「おーい、望海! こっち、こっち!」
 砂浜に出ると、あたしたちが乗ると思しきボートから声をかけてきたのは遥だった。
「えへへ、今日はボートで同行できるって聞いたんで、先生についてきちゃった。二人が潜ってる間、あたしがボートで留守番しててあげるからね。」
 遥の声は梅雨の合間の太陽のように明るかったが、あたしには、遥の声が少しだけ遠くに聞こえた。せっかく楽しい時間のはずなのに、あたしは昨日の絶望を引きずったままで、明るく接してくれる先生と遥に申しわけなかった。

「遥、留守番してくれるのはありがたいけど、これは遊びじゃなくて調査だからな。あんまり浮かれてないで、ちゃんとボートの様子を見ていてくれよ。」
「もう、わかってますって。重し……じゃなくて、英語でアンカーっていうんだっけ、外れたりとか、何かあったら、無線で先生に連絡するんでしょ。うん、忘れてないよ。」
 先生は、あたしの表情が硬いのを気遣ったのだろうか。遥を軽く窘めていた。

 そして、あたしたちは、カメラやらフラッグやらの入った大きなトートバッグをボートに積み込むと、そのままボートで沖へと進んだ。

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