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海猫たちの小夜曲
第4章 冷たい海 ~海色のグラスと小麦色の少女③~
「おじさん、バカみたいな言い逃れするの止めなよ。バイトに行くから嫌だって言ってる望海を殴って連れてきたくせに。先週の金曜日だって、望海はバイトに行くって言ってんのに、無理やり車に乗せて連れて行ったじゃない。いい年した男が、言うに事欠いて、何が「仕方なく」よ。聞いてて、耳が腐りそうだわ。」
 そう言った遥の顔は怒りに満ちていて、きれいな女の子が怒ると、これほど恐ろしい顔になるのかと、あたしは別な意味で驚いていた。

「とっ、とにかく、望海のことはうちの家の話だ! 部外者が口を挟むな!」
 なおも去勢を張り続ける叔父に、先生は静かに、だがきっぱりとこう告げた。
「そんな理屈が通じたら、DVで苦しんでいる女性は永久に泣き寝入りでしょう。あなたも公務員ならそんな理屈が通じるわけがないことくらい、ご承知でしょうに。どうしてもご理解いただけないというのでしたら、今すぐ、ここに警察を呼ぶことも出来るのですよ。そもそも中年の男が、未成年の女の子を、こんなところに引っ張り込んで、ただで済むとお思いですか?」

 警察、という言葉を出されて、ついに叔父は観念したようだった。
 がっくりと肩を落とすと、そのままうなだれてしまった。

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