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お局の坪井さん
第3章 三


***


分かっていたのに、最初から。こないだ澤村さんは、酔っていただけ。私の事は好きじゃない。なのに、何で私、こんなに体が熱くなってるの―――


「坪井さん」


給湯室で花瓶に水を注いでいると、急に声を掛けられ、はっと我に返った。この声は、澤村さんだ……。どうして?私を追い掛けてきたの?…って、バカ!そんなわけないでしょ!!


「はい……どうされました?」


キュッと水道の蛇口を捻り、水を止めると、ドアの方を振り向く。

すると―――


「…会いたかった……!!」


後ろから強く抱き締められて、石像のように固まってしまった。

ちょっと!ここ会社……!


「あの、澤村さん……!」

「健斗です!名前で呼んでくださいって言ったじゃないすか!」

「け、健斗さん……ここ、会社なんですけど……」

「知ってます!だから何だって言うんですか!俺達二人の愛は、何処でだって不滅です!!」


…ヤバい。この人、ヤバいぞ……。

抱き締められたまま澤村さんの言葉を聞くと、体から血の気が引いていくのが分かる。


「とりあえず、離れましょう……!」

「嫌だ!坪井さんといつまでもくっついていたい!」

「ですから……ここ、会社だと言っていますよね?誰かに見られでもしたらどうするんですか!」


穏やかだった口調が澤村さんの言葉を聞くと、強い口調に変わってしまった。

そのまま両肩を掴まれ、くるりと澤村さんの方を向かされると、真剣な目でじっと見つめられ、


「見られたって良いです。言いましたよね?俺、坪井さんの事好きだって」

「ええ、まあ……」


私は眼鏡を正しながら、澤村さんから視線をそらす。

だけど……


「好きです。坪井さん、俺と結婚を前提にお付き合いしてください」

「ええ……はい……って、ええっ?!」

「よっしゃぁぁぁ!!!今日から坪井さんの彼氏だぁぁぁ!!」

「ちょ、ちょっと……!」


思わず私が告白に返事を返すと、澤村さんが喜びながらガッツポーズをして、困惑してしまった。
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