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社長息子は受付嬢を愛慕う(仮)
第12章 聖と巽
用意して貰った別の浴衣に着替え、居間を覗いて見れば、聖さんは優雅にティータイム中。和風なのに和風に拘らない、聖さんの部屋と一緒で自由な考えだと思う。
「浴衣ありがとうございます」
「昨日汚してしまったからね。その浴衣も似合うよ奏多」
「沢山持っているんですね」
今日のは、昨日と同じような翡翠色が基調だけど、少し色の濃い葉が描かれている浴衣。それに昨日の羽織りをかけ、首には羽織りと同じ色の布を巻いている。
「着物や浴衣は僕の趣味というより、元々この家にあった物なんだ。祖母や母が着ていた。……どちらももう居ないけどね」
「……あ。すみません」
居ないということはつまり……。こういうのって聞いちゃいけない、それが普通というか礼儀だよ。
「いや。家族構成を話していなかった僕も僕だから、気にしなくていいよ。
今は父と僕と巽しか居ない。親族は居るけど少ない家系でね、あまり付き合いもないかな」
「もっと沢山居ると思ってました」
意外……伊礼物産だもの、大きな家だから、家族や親族が大勢存在していると思っていた。でもそれは私の勘違い。聞いてみないと解らないこともある。
多分、殆ど聞けないであろう内々の話に、私は近くに座り大人しく聞いている。手の届かない存在かも知れないけど、聞いていたいの……私が。
「厳格な祖母が居なくなってから、この家も柔らかくなったね。本宅にも近寄れなかった僕達が、成人前に戻れたのは父のお陰。『古い慣習など必要ない』と、僕は大学、巽は高校時代にこっちに移ったんだよ」