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社長息子は受付嬢を愛慕う(仮)
第12章 聖と巽

でも巽は……。
僕と同じ道を進んだ巽は、奏多に告白どころか声をかけることも出来ず。
自身の置かれた環境が、嫌でも女性を抱くことがトラウマになっていたのは確か。
……そう、祖母は巽にも同じことを強要した。

(僕より巽のほうが、精神的ショックは酷かった)

『目立つことなかれ』は、まだいい。無理矢理でも女性を抱くことに否定的だった巽。僕がなにを言っても、当時の巽は返答もない。いや、セックスの話になると返事もしないか。どれだけ嫌だったのか、あの態度を見れば伺い知れるもの。僕も巽に言うことを止めたけれど、それが巽のためだったのかは……分からない。

転機は祖母が他界した時。
父が『古い慣習など必要ない』と言い出し、僕と巽を自分の元へ戻したため。
その時に初めて知った、母が離婚していたと。僕たちは何年もこの事実を知らされていなかった。

こうして自由になった僕と巽だけど、無駄に女性というものを『知っている』だけに、隠れて女性を抱くのを止められない。体が覚えた快楽は、そう簡単に抜けるものじゃない。逆に自由になった分弾けたんだろう。
僕は父と一緒に立つことが多かったから、玉の輿狙いの女性とか抱くのには困らなかったが、巽は裏で女性をナンパしていたと思う。
それでも……本気になれない、女性をセックスの方法としか見ていない、女性不信はずっと同じと、揃ってジレンマを抱えていた。

だからこそ奏多に期待を持つ。あまり男性を知らない奏多、巽に先を越されたのは致し方なしとしても、僕は諦めきれないんだ。……昔見た奏多と、新たに見た奏多に、理想の女性像を重ねているのかも知れない。

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