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社長息子は受付嬢を愛慕う(仮)
第5章 もう一人の社長息子

「あの! こっちは!」
「一人で歩くのが無理なら、黙って付いて来い。
俺のほうは身内の集まりだ、心配するな」
「…………」

なんて強引な人なのよ!
歩けないのは本当だけど、こんな言い方をしなくてもいいじゃない。
それに連れて行かれた個室には、先ほど間違えた聖様が座ってる!?
どうなっているの?
身内の集まりと言っていたけれど、その身内が聖様だなんて……ありえない。

「どうした?
彼女は確か……」
「酔って倒れそうになっていたから連れて来た。
後は誰も来ない。ほら、その辺で寝ていろ」
「…………」

個室の隅に寝かされた私。
でも、こんな場所で休めるわけがないじゃないの!
……そう思っていれば。

「冷えるから、これでも掛けておけ」

ふわっと私の体に掛けられたのは、ここに連れて来てくれた人の上着。
わざわざ脱いで私に掛けてくれたらしい。

(……温かい。それに良い匂いがする)

微かに残る温もりと、香水だとは思うが爽やかな香り。
凄く身だしなみに気を使っている人みたい。

「巽(タツミ)は優しいね」
「よせよ」

(……巽……)

それが名前?
聖様がフレンドリーに呼ぶのだから、本当に身内なんだ。
だけど私、こんな場所に居て良いの?
用があってこの店に来ているかも知れないし、お邪魔になるのは不味いとも思うのだけど、不思議とこの香りに安心している私が居る。

(やだ、眠くなる……)

ふわふわとした気持ちいい感覚に、睡魔が囁くようにやって来るの。
眠っちゃいけない。
それこそ大迷惑になる。
そう思うのに、意識は遠ざかるばかり。

だけど意識を手放す前に『彼女だろう?』という不思議な言葉を聞いた……不確かな記憶。

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