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社長息子は受付嬢を愛慕う(仮)
第5章 もう一人の社長息子
「……俺のことはいい。
問題は奏多、お前のほう。
俺が治してやろうか、その心の凝りを」
「十分に問題があると思いますが……。
私ですか? 別に今のままでも……」
「俺が治してやるよ奏多」
そう言い、掴んでいた手を離したと思ったら、巽さんにしっかりと抱き締められてしまった。
「初めはここからだろう?
どうだ分かるか、人の温もりが」
「あ、あの……巽……様?」
「巽でいい。様なんか付けられたら気分が悪い」
「巽……さん……」
「それくらいで許してやる……奏多」
『トクン』
今の……私の心臓?
抱き締められた温もりは、店で上着を掛けられた時と同じ温もり。
その温もりに、私の心臓が反応したの?
「こうしていると気持ちいいだろ。俺も奏多の温もりが気持ちいい」
「私……は……」
「逃げないところを見ると、嫌ではないようだな」
背中を支える腕の強さ。
優しく髪を撫でる仕草。
私が初めて体験する感覚。
短大時代の彼氏に、こんなことをされた記憶は無い。
嫌じゃないの、不思議な安心感が心に染み渡るみたいで、決して嫌じゃない。
「自分でも分かりませんが、嫌じゃないみたいです」
「そうか……。
もう少しこうして居るか?」
「……はい」
なぜだろう。
初めは怖いと思ったのに、今は全く怖くないのよ。
そうか、あの瞳を見たから。
真摯に私を見つめるあの瞳が、私から怖さを排除してしまったのかも知れない。