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社長息子は受付嬢を愛慕う(仮)
第26章 もう過ちじゃない

「あの車の中で、化粧を落として着替えてたの!?」
「どうしようもない時はな。後ろに荷物を積んでいただろ」
「うん、あったね」
「あれに予備の化粧道具や、どちらでも対応可能な着替えなどが入ってるんだ」
「あれ着替えだったんだ。でも前に私が乗った時はなかったよ?」
「そりゃ下ろすだろ。バレる前だったんだからな」

化粧を落としながら、少しのたわいもない話。こんな普通のことでも、奏多とだったら楽しいとさえ思えるんだ。俺もつくづく奏多にだけは甘い。
化粧を落とせば綺麗な素肌、奏多はこのほうが似合うと俺は思う。手に馴染むサラサラな触れ心地、口紅などなくても色味のいい唇、作らない自然な瞳……過去の奏多を知っているせいなのか、俺は素っぴんの奏多が好ましい。これもノロケなのか?

「……いいぞ」
「手早い……。私だったら倍の時間はかかるわ」
「ここまでくれば慣れだ慣れ。ついでだから、綺麗に見える化粧の仕方も教えてやる」
「巽さんに敵わないなんて……」
「女装なんてやったんだ、相当の研究しないと一発でバレるだろ? だからプロに教わったんだ。……と言っても、そっち系のプロだが」
「……巽さんって、そういう趣味がある……」
「あるかっ! 俺はノーマルだ、誰が男のケツを狙うかよ」
「……ぷっ。冗談なのに」
「洒落にならんぞ奏多。ずっと言っているだろう、俺は奏多一筋だと」
「それは……うん……」

そこで照れるなよ、俺まで照れるじゃないか。今までの人生で、愛の言葉なんか囁いたことすらない俺なんだ。これでも恥ずかしいのを我慢してんだよ。

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