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社長息子は受付嬢を愛慕う(仮)
第9章 社長息子は眉目秀麗
◇
プライベートでは洋装よりも和装を好み、家に居るときは殆どが和装。これくらいの好みは許される範囲内。……決めるのは僕ではないが。
伊礼物産は今でこそ大手商社だが、その起源は江戸時代の海運業まで遡る古い家系。古いということは、礼を重んじ、しきたりを重んじる、僕も巽もそうして育って来た。
それでも父が社長に就任してからは、随分と柔らかくなったとは思う。この伊礼に一番反発していた父、それがそのまま出たのだろう。
「あぁ、着替えないとね」
彼女が風呂ということで、多少時間があると呑気にしていた。巽に連絡もそうだが、持ち帰りの仕事も片付けていれば、そこそこの時間が取られてしまい、僕は急ぎ会社用のスーツから、家用の和装へと着替える。
洋より和が僕の好み。父からこの日本家屋の監理を任され、この家に住み始め、余暇を書や茶を嗜む充実した時間、それが僕には必要なのだろう。前よりは心が安定しているのだから。
「さて、ここに連れて来たことが吉と出るか凶と出るか……どちらだろうね。
奏多も巽も、そして僕も」
キチッと着なれている着流しに羽織を重ね、同じく着替えであろう奏多を見に居間へと向かう。
……お願いだから、僕達の期待を裏切らないで欲しい。それが僕と巽の願い。
そのために何年も待った。
待って、待って、諦めかけた時に運命は動き出したのだから。