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社長息子は受付嬢を愛慕う(仮)
第10章 墨の華~過ぎし日の回想録
『社会に出るまで目立つことなかれ』これが伊礼の教育方針。
僕も巽も、今時珍しい黒髪のままで眼鏡をかけ、極力目立たないよう、伊礼の本宅ではなく、祖母の実家があるこの土地で暮らすのを余儀なくされていた。
唯一反発していた父だが、祖母の力には敵わなく、僕達とは別の場所で暮らしている。
「綺麗だと思った。
彼女の周りだけキラキラしているようで、俺なんかが近寄る隙間もない」
「確かに綺麗な子だね。
僕もこんな風に思ったことがないから、自分でも驚いているよ」
「聖も?」
「好みは似るのかな?」
「さぁな」
……これが発端。
その後は、暇があれば彼女を見に、朝の通学路に行っていた僕と巽。
『社会に出るまで目立つことなかれ』、この柵が巽の行動を制限し、彼女に話しかけることも、ましてや告白することもなく、高校の3年間を終えることになる。
その際、彼女の進学先を調べることが出来ず、彼女がどの大学に入ったか分からずじまい。
僕は普通に4年制の某有名大学だが、巽は短大選択。
早く社会に出たいという気持ちが強かったのだろう、気持ちは分かる気持ちは。
社会に出てしまえさえすれば僕達は自由の身。
……そうなる前に父が伊礼物産を継いで、予想外に自由になれたが。
でも時既に遅し。
彼女の消息を失った今、敷かれたレールを歩くだけの日々……の、はずだった。
新規採用リストの中に、彼女の名前を見つけるまでは。先に動いたのは巽、そして今も動いている。……彼女には分からない方法で……。