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社長息子は受付嬢を愛慕う(仮)
第10章 墨の華~過ぎし日の回想録

「それは!?」
「彼のこと、君の自宅も把握しているのではと心配なんだよ。どうか聞き分けて欲しい」
「…………」

考え込んでしまった。
こんな簡単に説明しただけでは駄目だったのだろうか? 今言えるギリギリのところまで、僕は話したつもり。……これ以上はまだ言えない、話せない秘密と理由がある。

お互いに沈黙し、静かな時間が居間の中を流れる。
奏多はなにを考えているのだろう? そう心配し始めた頃に、彼女は漸く顔を上げた。

「週明け手前まででしたら、お話を受けます。三科さんが私の家を知っている可能性は本当にありそうだから」
「聞いてくれて、ありがとう奏多。これで僕の不安も少なくなるよ」
「心配させてすみません」
「奏多には協力を惜しまない。僕も、巽も」
「……はい……」

良かった、奏多が話を聞いてくれて。これで僕のほうも動ける。
……大切な彼女を傷つけた罪、あれだけで終わらせるつもりはない。奏多だけではない、世の中に存在する全ての女性のために。

「まずは休むことが肝心、先ほど通した部屋は分かるかい?」
「えーと……あまり自信がありません」
「そう、僕が部屋まで連れて行くよ」

さりげなく手を差し出せば、奏多は躊躇いながらも僕の手を取る。
警戒はされていない。
それがどれほど嬉しいことか、奏多には分からないだろう。

優しく彼女の手を掴み、少々時間が遅くなった、深夜の古風な廊下を歩く。

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