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社長息子は受付嬢を愛慕う(仮)
第10章 墨の華~過ぎし日の回想録
部屋に着き、奏多を中に入れたが、彼女は僕に不安そうな瞳を向ける。
「あの……この広い部屋に、私一人ですよね?」
「気に入らない?」
「こんなに大きいと、居心地が悪いというか……。
ほ、ほら、普段はワンルームなので……慣れないです」
彼女は無意識だろうが、僕のほうがドキッとしてしまう。……その瞳に、所在悪そうな仕草に、長年積もった想いが爆発しそうになる。
「どこかに泊まると思えばいいんだよ、古い旅館みたいな家だからね」
「泊まる……ですね。
私には豪華すぎるから」
少し歩き周りを見回して止まってしまう奏多。着物と共にその儚さが、僕の心に炎を付ける……抑えきれない!
「……奏多……」
「……あ」
自然と後ろから奏多を抱き締めて、彼女がここに居ると確かめたくなってしまったのは、奏多があまりにも憂いを帯びていたから。
……いや、その行動が心騒いだのだろう。
「……怖いかい」
「私は……分かりません。
こんな風に優しくされたことは少ないので、私自身どう思っていいのかすら……」
「僕が優しい?」
「聖さんは優しいと思います。三科さんと丸っきり違うくらいは理解出来ます。……すみません、あまり男性に慣れていなくて」
「慣れていない……」
「付き合ったのは短大時代に一人きり。後は……」
「……巽かい?」
僕の腕の中で、奏多は小さく頷く。巽のことは予想済み、多分そうだろうと。
妬けるが嫉妬という言葉はない。巽がどれだけ奏多を想っているのか、一番知っているのは僕だ。