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社長息子は受付嬢を愛慕う(仮)
第10章 墨の華~過ぎし日の回想録

「軽蔑しますか? 男性に好きにされる私を」
「まさか。
巽は多分そうだろうと思っていたから、驚きはないね。三科君のことは、何度も言うが奏多のせいじゃない、その判断を見誤ってはいけないよ」
「でも、私が男性と関わると……」
「それは奏多の偏見。
僕はこの機会を幸運だと思っている。……ずっと焦がれていた奏多が、こうして僕の手が届く場所に居るのだからね」
「……聖さん」

身動ぎしたと思えば、奏多が僕のほうに振り向いた。
そして僕の真意をはかるような彼女の瞳、だから僕も見つめ返す。……嘘偽りはないと分からせるために。

「幸運だよ。こうして僕の腕の中に居てくれる。僕のことを怖がらずに居てくれる。漸く見つかった僕の愛しい存在、それが奏多」
「私なんかが……」
「君以外居ない、他に目もいかない。あの日、初めて奏多を見た時から、僕の心の中は奏多だけだよ」

怖がらせないために、額にそっと触れるだけのキスを落とす。
大切で、大切で、忘れられなかった理想の存在。
この家で、僕だけを見させ愛でたいという、いけないことまで考えてしまうほど、僕にとって奏多はかけがいのない存在だというのに、奏多は理解してくれない。

「聖さん、酔っています?」
「いいや、酔っているのは奏多だよね」
「私、酔ってますか?」
「頬も首筋も、ほんのり紅色だよ」

言葉通りに手を滑らせれば、奏多の体がピクリと震える。
どうして着物は、温もりを感じるのに不向きなのだろう。今ほど温もりを確めたいと思うことはないというのに、厚い布に阻まれ届かないのがもどかしい。

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