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社長息子は受付嬢を愛慕う(仮)
第10章 墨の華~過ぎし日の回想録

だから……。

「少しだけでいい、奏多の温もりに触れたい」
「……ん?」

抱き締め、唇を避け肩口に顔を落とす。
頬に伝わる奏多の温もりは、なんて心地よいのだろう。
だが見えてしまう、あの男が付けた刻印を。奏多にこのような煩わしいものを残すとは、僕的に納得出来ない。

「痕……見ないで……」

僕の羽織を引き寄せ、隠そうとする奏多がいじらしい。それと一緒に痕さえ無ければと……違う、痕は塗り替えればよい。……僕が。

「先ほどの今なのに、こんなことをする僕が怖くないかい?」
「怖くは……ないです。
だって聖さんの瞳は、嘘をついている瞳ではなかった。真摯に私を見ている瞳だったから」
「そう……。
これから僕のすることも大丈夫?」
「なにをするんですか?」
「消毒……かな」

頬をズラし、一番手短に見える刻印に唇を這わせ、ちょっとだけ吸い上げてみせる。
……消えないのであれば、僕の刻印にしてしまえばいい。あの男ではなく、僕の証として。

「あっ! 聖さん!?」
「僕が上書きしてあげる。
彼より僕のほうが、気持ち的に楽にならないかい?」
「それは……はい……」
「……!」

奏多が同意した!
まだ怖いだろうに、僕の提案を受け入れてくれるなんて、嬉しくて、すぐに全ての痣を変えてしまいたくなりそうだ。
そうは思えど、無理矢理はあの男と同じこと。まずは落ち着ける場所に奏多を座らせる。……夜は長い、ゆっくりと奏多の心も体も溶かしてゆけばいいだけ。

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