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私を抱いて…離さないで
第3章 パパ
「……」
スーツ姿の男性。
抱っこ紐で赤ちゃんを前抱っこし、缶ビールを片手にのんびりと歩く。
相変わらず、赤ちゃんは人形の如くだらんとし、覇気はない。なのに目だけはしっかりと見開き、大きくぱっちりとしている。
………あの人、またこんな所で……
「……!」
その男性が此方に顔を向け、じろっと睨む。何故かは解らない。暗くてあまり見えない筈なのに。
行く先の進路を変え、此方に向かってくる。ゆっくりと。おぼつかない足取りで。
「……行こう」
繋いだ先輩の手に、力が籠められる。
と、強く引っ張られ、足早に変わる先輩。
「………ごめんね。怖い思い、させて」
先輩の声。真っ直ぐ前を見据えて、此方を見ないままで。
「さっき通った時は、あんな奴いなかったのに──」
「……」
僅かだけど感じる、苛ついた声。
握られた手が、少しだけ痛い。