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私を抱いて…離さないで
第3章 パパ

こういう場面なら、私にもあった。
大学に入ったばかりの頃──大山さんに誘われて入ったサークルの初めての会合で、酒の入った先輩方から一発芸の無茶振りをされて。

『……じゃあ、私。モノマネしまぁーす!』

少し鼻に掛かった可愛らしい声で、大山さんが恥ずかしそうに犬と猫の鳴きマネを披露する。
隣に座っていた私は、緊張で頭が真っ白になっていて。

あの彼女のように、場をシラけさせてしまって──


「お決まりでしょうか……!」

突然の声に、ハッと我に返る。
座敷からキッチンへと戻る道すがら、笑顔を向けた店員が此方に立ち寄っていた。

「……ぇ」

間仕切りである暖簾の下を潜り、小脇から伝票を取り出しながらスッとしゃがみ込む。
私が、座敷の方へと顔を向けていたせいで、注文をしたいと勘違いさせてしまったらしい。
慌ててメニュー表に視線を戻し、ペラッとページを捲ると……

「……っ、果穂……?」

それまであった営業用の声質とは異なり、男性店員の口から地声が飛び出す。
下の名前を呼ばれた事も驚き、声に引っ張られて店員を見れば……


そこにいたのは──安藤先輩。

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