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私を抱いて…離さないで
第1章 初恋の人
そうされるがまま、足を大きく前に踏み出す。
頭の中は真っ白で……何が起きているのか、すぐに判断できない。
繋がれた手の先……腕、背中、と視線を上へと辿れば、それは何となく見覚えのある男性で───

「……」

細身でスラッと高い背。毛先を遊ばせた、アッシュブラウンの髪。
首筋から流れる風に乗って、清潔感のある香りがふわりと鼻孔を擽った。



交差点を渡りきった所で、私を摑んでいた手が離される。
空はすっかり闇に覆われ、上弦の月が静かに見下ろしていた。辺りは仄暗く、すれ違う人の顔が、もうハッキリと見えない。街のネオンがそこここと輝きだし、夜の顔を見せ始める。

「信号変わってんの、気付かなかった……?」

呆れ声に続き、その男性が振り返った。
白と青のチェックシャツに、タイトなジーンズ。爽やかな顔立ちながら、少し眉根を寄せた表情の彼は、同じサークルの──

「安藤……先輩……」

──ドクンッ
思うより先に、心臓が大きく跳ね上がる。

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