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私を抱いて…離さないで
第1章 初恋の人

貴女はこっち側に来ないでね──引かれたその一線を、越えようとは思わない。
それは昔も今も同じ。
同じサークル仲間のカースト上位グループに、自ら飛び込む様な真似はしない。
例え、大山さんにいいように使われて、わざわざ目の前で線引きをされたとしても──ただ静かに、平和に過ごせるなら、別に構わない。
「……綺麗に纏めているね」
直ぐ傍で声がし、ハッと我に返る。
顔を上げて見れば、手を後ろに組んだ講師──菱沼が、私のノートを覗き込んでいた。
細縁の眼鏡の奥にある、少しだけつり上がった瞳。
インテリ系の顔つきながら、何処か温かみと落ち着きのある雰囲気を纏っている。
三十代後半だろうか。目尻や口元に、年相応の皺が刻まれてはいるものの、草臥れた様子も親父臭さも感じない。
ふわりと、ミント系の爽やかな香りが鼻孔を擽った。
「いつも私の話を熱心に聞き、こうして最後まで居残る姿を見て……ずっと気になっていたんだ」
「……え」

