この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
私を抱いて…離さないで
第1章 初恋の人
* * *
「……ねぇ、川口さん」
それは、三ヶ月程前──
大学の講義室に入るなり、大山美紀子に声を掛けられた。
艶やかなストレートの黒髪は肩まで長く、ナチュラルメイク、清楚系の服を身に纏い、一見育ちの良いお嬢様といった印象。
そんな彼女とは、同じサークルメンバーってだけで、一緒に連んでランチするような仲ではない。
「今夜、予定ある?」
「……」
彼女が申し訳なさそうな表情で尋ねてくる。猫なで声の時は、決まって好ましくない言葉が続く。
「ちょっとだけ、付き合ってくれない?川口さんにしか頼めないの。……ね、ね?」
両手を顔の前で合わせ、首を少し傾げ、男に媚びるような上目遣いをしてくる。
特定の友達のいない私は、彼女にとって都合のいい相手。
以前、何度か合コンに引っ張り出された事があったけれど……
結局私は数合わせの為の存在で、自己紹介が終われば最初からいない者扱いを受けていた。
「……ほら、何事も経験……でしょ?」
反応のない私の手を両手で包み、潤んだ瞳をパチパチとさせ、強引に引き込む。
「……うん」
いいよ、別に──
確かに私は、貴女を通さないとみんなと同じ世界に触れる事ができないから……
「ほんと?……嬉しい!」
パアァ、と花が咲いたような笑顔。
周りを取り巻く幸せオーラ。
……私とは、違う人種。
「……じゃあ、また後でね!」
いつもの如く、去り際は早くて。
私に軽く手を振った後、私とは一線を引くように、友達グループの中に混ざっていった。