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私を抱いて…離さないで
第1章 初恋の人

* * *


「……ねぇ、川口さん」

それは、三ヶ月程前──
大学の講義室に入るなり、大山美紀子に声を掛けられた。
艶やかなストレートの黒髪は肩まで長く、ナチュラルメイク、清楚系の服を身に纏い、一見育ちの良いお嬢様といった印象。
そんな彼女とは、同じサークルメンバーってだけで、一緒に連んでランチするような仲ではない。

「今夜、予定ある?」
「……」

彼女が申し訳なさそうな表情で尋ねてくる。猫なで声の時は、決まって好ましくない言葉が続く。

「ちょっとだけ、付き合ってくれない?川口さんにしか頼めないの。……ね、ね?」

両手を顔の前で合わせ、首を少し傾げ、男に媚びるような上目遣いをしてくる。
特定の友達のいない私は、彼女にとって都合のいい相手。
以前、何度か合コンに引っ張り出された事があったけれど……
結局私は数合わせの為の存在で、自己紹介が終われば最初からいない者扱いを受けていた。

「……ほら、何事も経験……でしょ?」

反応のない私の手を両手で包み、潤んだ瞳をパチパチとさせ、強引に引き込む。

「……うん」

いいよ、別に──
確かに私は、貴女を通さないとみんなと同じ世界に触れる事ができないから……

「ほんと?……嬉しい!」

パアァ、と花が咲いたような笑顔。
周りを取り巻く幸せオーラ。
……私とは、違う人種。

「……じゃあ、また後でね!」

いつもの如く、去り際は早くて。
私に軽く手を振った後、私とは一線を引くように、友達グループの中に混ざっていった。

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