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私を抱いて…離さないで
第1章 初恋の人
「……」
動けなかった。
何が起こってるのか、暫く受け入れられなかった。
こういう事態を、今までも想像しなかった訳じゃない。だから、万全では無いものの、行為の後は用心してきたつもり。
……だったけど……
椅子の上に置かれた、バッグ。
視界にぼんやりと映り、その私物にゆっくりと近付く。
ファスナーを開け、携帯と財布、学生証がある事に酷くホッとし、胸を撫で下ろす。
しかし、ふと不安に駆られ、慌てて財布を開いた。
「──!」
抜かれて、る……
紙幣を仕舞う場所が、空っぽ──
「……」
あんな事を、されて……
その上、お金まで……
膝がカクンと折れ、絨毯の上にペタンとお尻をつく。
全身の力が抜け落ち、財布を持った手がだらんと下がる。
もう、……何も考えられない。
極悪非道な男の遣り口に、もう、色んな感情を通り越していた。
……魂が何処かへ飛んでいって、抜け殻にでもなったよう。
「……」
通常よりも瞼を大きく押し上げ、何処か一点を見つめたまま。
──その場から暫く、動けそうになかった。