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私を抱いて…離さないで
第1章 初恋の人


ふらふらとネオン街を彷徨う身体は、見知ったビルの前に辿り着く。
見上げれば、雨で薄白けた空に『雅-Miyabi-』の看板が眩しい程に輝いていた。


「……あー、雨かよ。どうする、美麗」

──美麗。
その名前に弾かれたように身体が跳ね、瞬間、頭が冴える。

「どうしますか。諦めます?」
「………あー、いや。小降りになったら行くぞ」

エレベーターから降りてきたらしい、ラフな格好をした二人組の男が現れた。
一人は、先輩風を吹かせる男。そして、もう一人は……

「──、!」

咄嗟に、壁際に張り付いて隠れる。


「ところで美麗。お前、例のオバサンと枕したろ」
「……はは。何ですか、それ」
「誤魔化すんじゃねーよ。
ったく、見りゃあ解んだよ。あのオバサンの、美麗を見る目付き。……あの執着ぶりは、マジでヤベぇぞぉー」
「……」

……枕……
枕って、確か………

瞬間。裸になった祐輔くんが、年配女性を優しくベッドに組み敷いた構図が、頭の中に浮かんだ。

「金持った寂しい独身女を、あんまり惚れさせんなよ。そのうち後ろから刺されても、知らねぇからな」
「……」

祐輔くんから、否定する言葉はない。
つまり……そういう、事……なんだろう。

……なんだ。
やってる事は、私と同じ……
同じ……だよね。
同郷で、同じ境遇。……過去を捨てた祐輔くんだって……一人で生きていく為に、そういう事……するよね……

──ズキン……
そう言い聞かせるのに……胸の奥が疼いて、苦しい。痛い……

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