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私を抱いて…離さないで
第2章 人と金と…
「顔ぐらい、拭いたら……」
「──い、」

いらない……!

拒否したいのに。
……身体が、声が……震えて……

腕を胸の前でクロスし、自身の二の腕を掴む。
俯いたまま一歩後ろへ下がれば、おじさんが心配そうに顔を覗き込み、一歩、と距離を詰めてくる。
無遠慮に伸ばされる、手。
僅かに口を開けるものの、そこから何も出て来なくて──

いや……触らないで……
……やだ……


「──果穂!」

良く通った声が、遠くから私の心の中に真っ直ぐ届く。
身構えたまま顔を少し上げれば、声に反応して後ろを振り返るおじさんが視界に映る。
その背後から、スッと現れたのは……

「待たせてごめん」
「……」

背の高い、爽やかな顔立ちの──安藤先輩。

「って、凄い濡れてるじゃん……!」

先輩と私を交互に見ながら去っていくおじさんとすれ違い、私の正面に立った先輩が、心配そうに覗き込む。
見知った顔だからか──それとも、スーツを着てないからか。
さっきみたいな怖さは感じない。

「……」

取り出したハンドタオルで、先輩が器用に私の前髪、頬、顎先、首筋……と拭いてくれる。

間近に迫る、先輩の顔。
切れ長の綺麗な瞳。意外と長い睫毛。
ふわりと香る、爽やかな匂い。

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