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私を抱いて…離さないで
第2章 人と金と…
「……果穂ちゃん」
仄暗い頭上から、微かに私の名前を呼ぶ声が聞こえる。
それに引き寄せられて瞼を持ち上げれば、心配そうな顔をした先輩と間近で目が合った。
「よかった。……確か、この辺りに住んでいるんだよね」
「──え、!」
パッと目を見開ければ、先輩の肩を借りている事に気付き、慌てて退ける。
その様子が可笑しかったのか。先輩が目を細めて笑った。
「……え……」
ここ……タクシーの中。
辺りを見回せば、先輩の言う通り私の住むアパート近辺を走っている。
「ごめん。正確な場所までは解んなくて」
「……」
「運転手さんに、案内して貰えると助かるんだけど」
「………あ、はい……」
……もしかして先輩……
私を抱えながら、タクシーを拾ってくれたの……?
その光景を想像すると、申し訳無さでいっぱいになる。
スクランブル交差点の時といい、今日といい……どうして先輩は、私なんかをこんなに構うんだろう……
タクシーの運転手に住所を告げ、ふと先輩に視線を向ける。
視界に映るその肩が濡れていて……私の濡れた髪のせいだと気付いた。