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私を抱いて…離さないで
第2章 人と金と…
タクシーが、それなりに年季の入ったアパート前に停まる。
カチ、カチ、カチ、……と規則的に点滅するハザードランプ。
濡れた道路に塗り広げる、鮮やかな橙色。
雨足はだいぶ落ち着いたものの、まだしとしとと雨が降り続いている。
タクシーの後部ドアが開き、足を下ろす。と、先輩がビニール傘を広げてくれた。
「送るよ」
「……え、あ……いえ……」
一緒に降りようとする先輩を、慌てて止める。
これ以上は申し訳無い気持ちもあるけれど……このままだと、部屋に上げる流れになりそうで……
「すぐ、そこなので……」
「………そっか」
「……」
先輩が、心配そうに私の顔を下から覗き込む。
「じゃあこれ、使っていいから」
手渡された傘。
咄嗟に受け取ってしまったけれど……
「……あの、先輩……」
「風邪引くなよ」
パタンと閉まるドアの向こうから、先輩が笑顔で手を振る。
ここまで送ってくれた事も、タクシー代の事も、駅で助けてくれた事も……
まだ全部、お礼を言えてない、のに……
「……」
ポッカリと空いたその心に、先輩の優しさが沁み広がった。