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恋する真珠
第1章 海と真珠
…気がつくと、薄墨色の夕闇が辺りを柔らかく包んでいた。
夏実と別れた後、何となく家に帰る気になれずにふらふらとそぞろ歩いている内に、漁港そばの繁華街に来てしまったらしい。
…繁華街と言っても観光客向けの土産屋や干物屋、夏の繁忙期に浮き輪やパラソル、水着などを扱う雑貨屋、そして古くからある定食屋や喫茶店、居酒屋などが軒を連ねるだけのこじんまりとしたどこかレトロな雰囲気の商店街だ。
…ここ…初めて来た…。
興味にそそられ、ゆっくりと歩く。
居酒屋が店先の提灯に灯りを灯し出し、何となく人恋しいような色と匂いが漂い始める。
…澄佳さんが心配するから、帰らなきゃ…。
そう思った途端、先ほどの夏実の言葉が蘇ってきた。
…「涼ちゃんは昔、澄ちゃんを好きだったんよ」
ずきんと胸の奥が小さく痛む。
澄佳は鄙には稀な美貌と不思議な艶やかさを兼ね備えた兄嫁だ。
東京の有名私立大の大学教授をしている兄、柊司とはフリマアプリで知り合い、大恋愛の末に結婚したばかりだ。
食堂を経営する澄佳の為に週末婚を選んだ二人は、瑠璃子から見ても微笑ましいほどに仲睦まじく、熱々そのものの夫婦である。
瑠璃子は自分の苦境に優しい手を差し伸べてくれた澄佳が大好きだし、憧れてもいる。
だから嫉妬はしたくない。
…澄佳さんは綺麗で素敵なひとなんだもん。
近くにいたらそりゃ好きになるよね…。
今は柊司と結婚しているのだし、気にすることはないと自分に言い聞かせる。
…そろそろ帰ろう…。
ふっと息を吐き、今来た道を引き返そうとした刹那…少し前にある小さなスナックの扉が開き、背の高く逞しい体躯の男と派手なドレスの女が何かを話しながら出てきた。
「…もう帰るの?涼太さん」
「…ああ、明日の漁は早いからな。
明け方前には出発しなきゃならねえ」
男女の貌を見て瑠璃子は息が止まるほどに驚いた。
…涼太と…彼にしなだれ掛かるようにべったりと纏わりつく女が瑠璃子の目の前に現れたのだ。
夏実と別れた後、何となく家に帰る気になれずにふらふらとそぞろ歩いている内に、漁港そばの繁華街に来てしまったらしい。
…繁華街と言っても観光客向けの土産屋や干物屋、夏の繁忙期に浮き輪やパラソル、水着などを扱う雑貨屋、そして古くからある定食屋や喫茶店、居酒屋などが軒を連ねるだけのこじんまりとしたどこかレトロな雰囲気の商店街だ。
…ここ…初めて来た…。
興味にそそられ、ゆっくりと歩く。
居酒屋が店先の提灯に灯りを灯し出し、何となく人恋しいような色と匂いが漂い始める。
…澄佳さんが心配するから、帰らなきゃ…。
そう思った途端、先ほどの夏実の言葉が蘇ってきた。
…「涼ちゃんは昔、澄ちゃんを好きだったんよ」
ずきんと胸の奥が小さく痛む。
澄佳は鄙には稀な美貌と不思議な艶やかさを兼ね備えた兄嫁だ。
東京の有名私立大の大学教授をしている兄、柊司とはフリマアプリで知り合い、大恋愛の末に結婚したばかりだ。
食堂を経営する澄佳の為に週末婚を選んだ二人は、瑠璃子から見ても微笑ましいほどに仲睦まじく、熱々そのものの夫婦である。
瑠璃子は自分の苦境に優しい手を差し伸べてくれた澄佳が大好きだし、憧れてもいる。
だから嫉妬はしたくない。
…澄佳さんは綺麗で素敵なひとなんだもん。
近くにいたらそりゃ好きになるよね…。
今は柊司と結婚しているのだし、気にすることはないと自分に言い聞かせる。
…そろそろ帰ろう…。
ふっと息を吐き、今来た道を引き返そうとした刹那…少し前にある小さなスナックの扉が開き、背の高く逞しい体躯の男と派手なドレスの女が何かを話しながら出てきた。
「…もう帰るの?涼太さん」
「…ああ、明日の漁は早いからな。
明け方前には出発しなきゃならねえ」
男女の貌を見て瑠璃子は息が止まるほどに驚いた。
…涼太と…彼にしなだれ掛かるようにべったりと纏わりつく女が瑠璃子の目の前に現れたのだ。