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恋する真珠
第1章 海と真珠
「…つれない男ねえ…。
泊まって行ってよ。うちから漁に行けばいいじゃない」
女が色っぽい流し目をくれながら、涼太の逞しい首筋に腕を回す。
「また今度な…。
寝坊するわけにはいかねえんだ。
明日は魚群を追うのに時間がかかりそうだ。
…あんたは激しいからな」
「…バカ。激しいのは涼太さんの方じゃない…」
…只ならぬ仲を思わせるような艶めいた涼太の低い声と女の媚びるような笑い声…そして、色ごとを匂わす会話…。

瑠璃子はぎこちなく後ずさりする。
…弾みで道端に転がっていたペットボトルを引っ掛けてしまい、それはからからと乾いた音を立てた。

二人が同時に振り返った。

「…瑠璃子…。ここで何をしている?」
怪訝そうに男らしい眉を寄せる涼太を瑠璃子は思わず睨みつける。
「…何してたっていいじゃん」

涼太に抱きついていた女が面白そうに瑠璃子を眺め回した。
「…ふうん…。あんたが涼太さんにプロポーズしたお嬢様?
へえ…本当に可愛いわねえ。絵本に出てくるお姫様みたい」
…ちっとも褒めていない…小馬鹿にしたように聞こえる言葉だ。
…それに…。

瑠璃子は挑戦的に女をじっと見つめた。
…安っぽいマゼンタピンク色のドレスに包まれた身体ははちきれそうに豊満だ。
ドレスから溢れ落ちそうなバスト…豊かな臀部はまるで女王蜂のように煽情的だった。
…いかにも水商売風な濃いメイクといい、派手なパーマがかかった栗色の髪といい、母や澄佳とはまるで違う大人の女だ。

「こんなとこでふらふらして…。
ここらは酔っ払った観光客なんかも多いんだ。
お前みたいな中学生がうろうろするところじゃない」
叱りつけながら怖い貌で近づいてくる涼太を、ぐいと見上げる。
「うるさいな。涼ちゃんに関係ないじゃん!」
…こんなに乱暴な言葉で、他人に苛立ちを露わにするのは生まれて初めての経験だ。
とにかく腹が立って仕方ない。

涼太は太い腕を組みながらぶっきらぼうに言い放った。
「澄佳が心配するだろう。
早く帰れ」

瞬間的にかっとなった瑠璃子は思わず叫んだ。
「澄佳さんが心配するから⁈
涼ちゃんは別に私が心配なわけじゃないでしょ!
ほっといてよ!」

胸の中の醜く滾るどろどろしたものを思いっきり涼太にぶつけて走り出す。

…大っ嫌い!大っ嫌い!大っ嫌い!
涼ちゃんなんて大っ嫌い!







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