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恋する真珠
第1章 海と真珠
辺りはすっかり暗くなり、濃い藍色の闇に包まれた夜の風景へと姿を変えていた。
ぽつりぽつりと沿道に続く居酒屋やスナックの灯りは、やや侘しい縁日の灯りのようだ。
港に停泊している漁船の灯りがちかちかと瞬き、地上の星のように見えた。

「…あのさ…。聞いていい?」
「あ?」
「…澄佳さんのこと…好きだったの?」
一瞬、力強い歩みが止まる。
しかし直ぐに瑠璃子を背負い直し、淡々と答える。
「…昔な」
再びゆっくりと歩き出す。
怪我をした瑠璃子に響かないような労りに満ちた歩き方に思えた。
「…今は?」
ふっと小さなため息が漏れる。
「今はお前の兄ちゃんの嫁さんだろうがよ」
「…でもさ…」
「俺は他人のものを横取りすることが大嫌いなんだよ」
…それに…
「…澄佳が幸せならそれでいいんだ」
穏やかな…嘘のない言葉に聞こえた。
「…ほんと?」
「ああ。…お前の兄ちゃんは良い男だ。
兄ちゃんといる澄佳は幸せそうだ。
だからそれでいい」

ゆらゆら揺れる涼太のがっしりとした筋肉質な背中は、まるで優しい揺籠のようだ。
それに甘えるように硬く逞しい背中に頰を押し付ける。
「…どうしたら…」
「ん?」
「…どうしたら、涼ちゃんは私を好きになってくれるんだろう…」
…心の呟きがそのまま唇から零れ落ちた。
「…私、本当に涼ちゃんが好きなんだよ。
涼ちゃんのお嫁様になりたいんだよ。
…だけど涼ちゃんは私のことなんか相手にしてもくれない。
大人の…ちょっと下品だと思うけど…でも色っぽいおっぱいとお尻がおっきな女のひととえっちしてる」
「おい、デカい声で言うな!」
慌てて叱責される。

「本当のことじゃん。
…なのに私は圏外なんでしょ?」
…ズルいよ…ズルい…。
瑠璃子はまためそめそと泣き出した。
溢れる涙は涼太の白いTシャツに染み込んでゆく。

涼太はもう叱らなかった。
しばらくして、深いため息とともに困ったような言葉が漏れた。

「…お前がまだ子どもだからだよ」
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