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恋する真珠
第1章 海と真珠
…遠くに、澄佳の店の灯りが見えてきた。
瑠璃子は涼太にしがみつく。
…海の匂いと…清潔な石鹸の匂い…
それから…煙草の匂い…。
…パパも柊ちゃんも煙草は吸わなかったな…。
それは成熟した…荒々しい海の男を連想されるような雰囲気を醸し出す香りだ。

「…もしもさ…」
そっと、雄々しく張り出した肩甲骨を撫でる。
「ん?」
「…もしも、私が大きくなって…それでも変わらずに涼ちゃんが好きだったら?
そうしたら、私を涼ちゃんのお嫁様にしてくれる?」
涼太は小さなため息を吐いた。
「…お前が大人になる頃、俺はいくつだよ…」
「十八歳ならいいでしょう?大学に行ったり…働いたりする歳だもん。
あと四年だよ。あっと言う間じゃん」
「それまで俺は独り身か?」
「…四年くらいいいじゃん」
にやりと笑いながら振り返る。
「すげぇ自信だな。
十八になったお前を俺が好きになる保証はあるのか?」
瑠璃子は絶句する。
「…それは…ないかもだけど…」
しゅんとする瑠璃子に、涼太は小さく笑う。
…そうして、唄うように低い声で続ける。
「十八になったお前はきっと信じられないくらい美人になっているんだろうな…」
「…涼ちゃん…」
「…息が止まるくらいに綺麗で近寄りがたいくらいにきらきらしていて眩しくて…多分男はみんな、お前のことを好きになる」
瑠璃子は声を弾ませる。
「…じゃあ…!」

ふふんと皮肉混じりな笑みが漏れた。
「けど、俺がお前を好きになるかは別問題だ」
「へ?」

…門の前で瑠璃子を待ちわびていたらしい澄佳が二人を見つけ、駆け寄ってくる。

涼太は慎重に瑠璃子を地面に降ろした。
「早く澄佳に脚を冷やしてもらえ」
「涼ちゃん!」

涼太はくるりと瑠璃子に背を向けると、手を振った。
「じゃあな。子どもは寝る時間だ」

…ああ、それから…
と、こともなげに振り返った。
「四年後のことは、1ミリだけ考えておいてやる」




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