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恋する真珠
第1章 海と真珠
横須賀のバレエ教室に通いだした当初は、金谷港からバスに乗って帰宅していた。
繁華街を通るバスだし、まだ帰宅する会社員たちが多い時間だ。
寂しい道でもない。
しかしある日、夜のバス停で瑠璃子が地元の不良達に絡まれる事件が起きた。
田舎町に瑠璃子の際立った人形のような美しさは目立ちすぎたのだろう。

たまたま迎えに来た涼太がその場面に遭遇し、男たちを鬼のような形相で蹴散らし追い払ったのでことなきを得たが、それ以来
「瑠璃子の迎えは俺がゆく」
と言う不文律になったのだ。

週に二日とはいえ、毎日夜明け前に漁に出る涼太にとっては手間もかなりの負担にもなるはずだ。
「いいよ。私一人で帰れるよ」
と毎回言うのだが、その都度じろりと睨まれるのだ。
「お前に何かあったら澄佳の立場がないだろう。
素直に言うことを聞け」
…なあんだ。
やっぱり澄佳さんか…。
瑠璃子はがっかりした。

…でも…。

瑠璃子は船首のデッキの手摺にもたれかかり、夜の帳が天幕のように覆う夜空と深い群青色の海原に貴婦人の優雅なレースのような波が弾け踊る景色を見つめる。
…夜の潮風の匂いは、涼太の匂いに似ていた。
それを胸いっぱいに吸い込む。

今夜もこの海の向こう…房総半島の麓に涼太が待っていてくれると思うと、温かなココアを飲んだ時のように心がじんわりと温まるのだ。
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