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恋する真珠
第1章 海と真珠
フェリーが港に接岸した。
船内に案内のアナウンスとのどかな音楽が流れる。
荷物をまとめて立ち上がる乗客たちを見て、財前が胸ポケットから一枚の名刺を取り出した。
「…僕は横須賀に住んでいるんだけれど、実家は君の住む町の隣の市なんだ。
時々、フェリーで帰宅して家業を手伝ってる」
…名刺には
「多家良や 広報部長 財前光彦」
と記されていた。
「…たからや…広報部長…。
え?大学生ですよね?」
財前は苦笑いをした。
「小さな会社だから、家族経営で何でもやるんだ。
大学生の僕もこき使われている。
…三男坊だから尚更だ。
僕は主にサイト運営やネット販売を担当しているんだ。
…うちは古い和菓子屋なんだよ」
「へえ…!」
瑠璃子の反応に財前が嬉しそうに眼を細めた。
「和菓子、好き?」
「はい。大好きです!」
甘いものに眼がない瑠璃子は笑顔で青年を見上げた。
それを息を飲んだように見つめ、財前はやがて優しく告げた。
「良かったら、遊びにきて。
販売店舗の隣に去年から和カフェを始めたんだ。
わらび餅のパフェや…最近はタピオカのどら焼きソフトなんかも新メニューで出している。
インスタ映えするってSNSで話題になって若いお客さんも増えているんだ。
…保守的な父親とはさんざんやりあったけどね」
いたずらっぽく目配せするその姿は二十歳とは思えない余裕に満ちていた。
「…美味しそう…」
素直に呟く瑠璃子の貌を覗き込み
「お友達を連れて遊びにおいで。
ご馳走するよ。
君の町からバスでそう遠くはないから」
「…はい…」
名刺を握りしめ、一応返事をする。
…多分、行くことはないな…と密かに思いながら…。
「…それから…」
やや硬くなりながら、青年が口を開く。
「また、フェリーで君に会ったら…声をかけてもいいかな?
気が向いたら、こんな風にお喋りしてくれたら嬉しいんだけど…」
瑠璃子は少し考えたのち
「…また踊っていてもいいのなら…」
と答えた。
財前は驚きに弾かれたように嬉しそうに笑った。
「もちろんだ。
…また船の妖精に会える…。
すごく嬉しい。
ありがとう…。
…瑠璃子ちゃん」
…と、最後はとても緊張したように…それからとても大切そうに瑠璃子の名前を呼んだのだ。
船内に案内のアナウンスとのどかな音楽が流れる。
荷物をまとめて立ち上がる乗客たちを見て、財前が胸ポケットから一枚の名刺を取り出した。
「…僕は横須賀に住んでいるんだけれど、実家は君の住む町の隣の市なんだ。
時々、フェリーで帰宅して家業を手伝ってる」
…名刺には
「多家良や 広報部長 財前光彦」
と記されていた。
「…たからや…広報部長…。
え?大学生ですよね?」
財前は苦笑いをした。
「小さな会社だから、家族経営で何でもやるんだ。
大学生の僕もこき使われている。
…三男坊だから尚更だ。
僕は主にサイト運営やネット販売を担当しているんだ。
…うちは古い和菓子屋なんだよ」
「へえ…!」
瑠璃子の反応に財前が嬉しそうに眼を細めた。
「和菓子、好き?」
「はい。大好きです!」
甘いものに眼がない瑠璃子は笑顔で青年を見上げた。
それを息を飲んだように見つめ、財前はやがて優しく告げた。
「良かったら、遊びにきて。
販売店舗の隣に去年から和カフェを始めたんだ。
わらび餅のパフェや…最近はタピオカのどら焼きソフトなんかも新メニューで出している。
インスタ映えするってSNSで話題になって若いお客さんも増えているんだ。
…保守的な父親とはさんざんやりあったけどね」
いたずらっぽく目配せするその姿は二十歳とは思えない余裕に満ちていた。
「…美味しそう…」
素直に呟く瑠璃子の貌を覗き込み
「お友達を連れて遊びにおいで。
ご馳走するよ。
君の町からバスでそう遠くはないから」
「…はい…」
名刺を握りしめ、一応返事をする。
…多分、行くことはないな…と密かに思いながら…。
「…それから…」
やや硬くなりながら、青年が口を開く。
「また、フェリーで君に会ったら…声をかけてもいいかな?
気が向いたら、こんな風にお喋りしてくれたら嬉しいんだけど…」
瑠璃子は少し考えたのち
「…また踊っていてもいいのなら…」
と答えた。
財前は驚きに弾かれたように嬉しそうに笑った。
「もちろんだ。
…また船の妖精に会える…。
すごく嬉しい。
ありがとう…。
…瑠璃子ちゃん」
…と、最後はとても緊張したように…それからとても大切そうに瑠璃子の名前を呼んだのだ。