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恋する真珠
第1章 海と真珠
財前とはそれから週に一度、フェリーで貌を合わせるようになった。

財前は瑠璃子が甲板でその日のバレエのおさらいをしているときは少し離れたところに佇み、静かに見つめているだけだった。
瑠璃子が踊り終わると拍手をし、温かな賞賛の言葉をかけてくれた。
とても眩しげな眼差しとともに…。

「素晴らしい!良かったよ。
瑠璃子ちゃんの踊りは本当に情緒があって綺麗だ…」
「ありがとうございます」
踊りを褒められることは、とても嬉しかった。

…そのあとは、人が疎らな客室で財前が買ってくれたココアを飲む。
財前はコーヒーだ。
温かなココアを飲みながら、瑠璃子は次第に様々な話をするようになった。

…実家は東京の本郷にあること、アメリカの大学で生物学の研究をしていた父親は小さな頃に航空機事故で亡くなったこと、小さな海の町に住んでいること、兄、柊司や澄佳のこと、澄佳の経営する「紫陽花食堂」のこと、部活は合唱部なこと、バレエの発表会が年末にあること…。
それから、母のこと…。

「そうなんだ。
瑠璃子ちゃんのお母様は今、上海なんだ」
「はい。中国茶のお勉強をしに行ってます」
…母に恋人がいることは、さすがに財前には打ち明けなかった。
瑠璃子も最近告白されたことだ。
とても驚いたが、どこかほっとした部分があった。
…なぜなら…。
瑠璃子は母が生さぬ仲の兄、柊司のことを密かに愛していたことになんとなく気づいていたからだ。
柊ちゃんが結婚して…一番ショックなのはママだから…。
…だから、良かった。
ママに愛するひとができて…。
心からそう思った。

「じゃあ、寂しいかな?」
「いいえ。兄もほぼ毎週末来てくれますし、兄のお嫁様がすごく優しいひとなので、寂しくはありません」
…それに…。

涼ちゃんがいるから寂しくはない。
そう心の中で呟いたとき…
「…瑠璃子ちゃんをいつも迎えに来るひと…」
見透かされていたのかとどきりとする。
…続いて
「瑠璃子ちゃんの好きなひとって…あのひとなのかな?」
柔らかな口調で尋ねられ、思わず動揺が走った。
「え?」
「…ごめんね。立ち入ったことを聞いてしまって。
でも、瑠璃子ちゃんがあのひとを見る眼の温度が全然違うから…。
そうなのかな…て」
穏やかだが、凛とした眼差しが瑠璃子を見つめていた。





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