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恋する真珠
第1章 海と真珠
都内の中高一貫の有名私立中学に通っていた瑠璃子が、この内房の小さな海の町に移り住んで半年が過ぎた。

その少し前…瑠璃子は東京のバレエ教室での些細なやっかみを買い、ネット掲示板に誹謗中傷されたことがもとでノイローゼ気味になり、自殺未遂をしてしまった。
心療内科に入院し一時は快方に向かったのだが、学校に戻ることへのプレッシャーに耐えかねて、再び多量の睡眠導入剤を飲み、自殺を図ってしまう事件を引き起こした。

…学校には通いたい。
けれど外の世界が怖い。
悩み苦しんでいた時に救いの手を差し伸べたのが兄、柊司の恋人の澄佳であった。

「私の町で海浜留学の生徒を受け入れているの。
瑠璃子ちゃんさえ良かったら、私の家から通ってみない?」

優しい澄佳の言葉に縋るように、転居を決めた。
母親と兄に付き添われ、退院した足で澄佳の住む内房の小さな海の町を訪れた。

兄の運転する車の車窓から見える海は、穏やかに凪いでいて…春の光にきらきらと輝いていた。
紺碧の水平線が眩しい…。
瑠璃子は窓を開けて深呼吸した。
「…海の匂い…」
しっとりと湿った温かな潮風が頰をくすぐり、長く艶やかな髪を揺らした。
…優しい子守唄のような波の音が聞こえる。
緊張していた気持ちがゆっくりと羽が生えたように軽くなる。

しばらく車を走らせると、こじんまりした漁港に白い漁船がぎっしりと停泊していた。
「…船?」
間近で見る漁船は初めてだ。
瑠璃子は身を乗り出した。
けたたましいがどこかのんびりしたカモメの鳴き声が、驚くほどに近くに聴こえた。

「瑠璃子、降りてみる?」
兄が優しく声をかけてくれた。
「うん。船、見たい…」
柊司が漁港の駐車場に車を停めた。
瑠璃子は迅る気持ちを抑えながら、車から降りた。


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