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恋する真珠
第1章 海と真珠
「不埒なとは心外ですね。
僕の瑠璃子ちゃんへの愛は神聖なものです。
愛を告げるのに年齢は関係ないと思います。
…そう、僕は貴方の方が不可思議ですね。
なぜ、瑠璃子ちゃんに何の意思表示もなさらないのですか?
瑠璃子ちゃんにこんなにも想われていて…。
貴方は傲慢ですよ。
愛されている者にありがちな傲慢さが鼻に付くのです」

財前の甘やかな貌にはもはや笑みは浮かんではいなかった。
そうして、いきなり今までのいかにも育ちの良い物柔らかな物腰をかなぐり捨てた。

「あんたは傲慢なんだよ。
自分は愛されているから、何もしないで安全地帯で、瑠璃子ちゃんを子ども扱いしているんだ。
その方が、自分は何も傷つかないもんな。
かっこつけて、大人ぶって…自分の本心を決して明かさない。
あんたは体裁屋なんだよ。
中学生相手に自分の気持ちも明かさない見栄っ張りの小心者なんだよ」
「何だと?」
涼太の男らしい眉が跳ね上がり、財前への距離を詰めた。
「もう一度言ってみろ」


…と、険悪な空気を一変するような、鋭い声が上がった。
それは、瑠璃子の甲高い叫び声であった。

「やめてよ、二人とも!
分かってるよ!涼ちゃんが私のことを好きでもなんでもないって!
そんなこと、財前さんに言われなくても分かってるよ!
…涼ちゃんは私のこと、可哀想な子だって憐れんでるだけなんだって!
東京で…ネットの掲示板で中傷されて…不登校になって…自殺未遂して…入院して…また、自殺未遂して…。
馬鹿な子だから…可哀想な子だから優しくしてやらなきゃって思っているだけなんだから!」
瑠璃子の白く艶やかな頰に、透明な涙がぽろぽろと溢れ落ちる。

「…瑠璃ちゃん!」
澄佳が切なげな声を上げる。
夏実が息を飲む。
財前がはっと瑠璃子を見つめていた。
店内が水を打ったように静まり返る。

「…瑠璃子…!」
涼太の声を聞いた途端、瑠璃子は弾かれたように店を飛び出した。
涼太の自分を憐れむような眼差しを見ないで済むように…。
自分の名前を呼ぶ涼太の声を背中に、瑠璃子はその場から逃げ出した。

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