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恋する真珠
第1章 海と真珠
店を飛び出し、長閑な海岸道路を横切る。
秋日和の穏やかな光と潮風が瑠璃子の身体を包む。
寄せては返す波の音、かもめの鳴き声…。
優しいそれらを払いのけるように走り続ける。

…そうだ…。
…涼ちゃんは私のことなんか…なんとも思ってないんだ。
…大好きな澄佳さんの義妹で…東京から来たひ弱な可哀想な子…。
不登校の問題児の可哀想な子…。
…だから優しくしてくれたんだ。

そんなこと、ずっとわかっていた。
分かっていたのに、気づかない振りをしていた。
哀しみと寂しさが胸に押し寄せる。

海岸に面したコンクリートブロックの防波堤によじ登る。
立ち入り禁止の札も目に入らない。
高さ5メートルはある防波堤の上にこわごわと立ち上がる。
…目の前に穏やかな内房の海が煌めいていた。
…大好きな…大好きな海…。

…退院してすぐ、車窓から目に飛び込んできたこの海は、まるで優しい揺り籠のように瑠璃子を黙って受け止めてくれたのだ。

涙に滲む紺碧の波濤をぼんやりと眺める。
…沖に点在する小さな白い漁船…。
瑠璃子が今までに見たどの風景よりも美しい…愛おしい風景だ。
…あの白い漁船から、涼ちゃんが降りてきたんだ。

まるで映画の逞しく荒々しく…美しい海賊みたいに…。
…陽の光を全身に受けて…
きらきら輝く、太陽の王様みたいに…。
…それで私は…

「瑠璃子!」
はっと振り返る。
涼太が見たことがないほどに怖い貌をして駆け寄ろうとしていた。
「危ないから降りろ!
今日は波が高い!早くこっちにこい!」

…また子ども扱いだ。
瑠璃子は唇を歪め、叫んだ。

「来ないで!」
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