パソコンから！ケータイから！スマホから！無料でどこでも気軽に楽しめる官能小説サイト

第1章 海と真珠

「り、涼ちゃん！」
瑠璃子はがくがくと震えながら防波堤にしゃがみこみ、眼下の海を覗き込む。

…まさか…本当に飛び込むなんて思わなかった。
私の…あんなヒステリックな八つ当たりを真に受けて飛び込むなんて！
一笑に付せられると思ったのだ。
または瑠璃子に愛想を尽かして背中を向けられると…。

「涼ちゃん！」
防波堤に打ち寄せる波は思ったより遥かに荒々しい。
大波が打ち寄せては潮溜まりが激しく渦巻いている。
その白い波間にも紺碧の海の中にも、涼太の姿は影も形もない。
「涼ちゃん！涼ちゃん！」
瑠璃子は狂ったように叫ぶ。
…暖かな日差しだが季節は秋だ。
海水も冷たいに違いない。
「…どうしよう…。
涼ちゃん！」

…私のせいだ！
私の歪んだわがままのせいで…！
涼ちゃんを試すような真似をしたから…！
涼ちゃんに振り向いて欲しくて…。
ただ自分の幼稚な挑発で、涼ちゃんは…！

「涼ちゃん！」
打ち付ける波間に未だに涼太の姿はない。
コバルトブルーの海は、何も映し出さない。


「瑠璃ちゃん！そこにいて！」
澄佳の悲痛な声が響いた。
防波堤の向こう、澄佳と財前と夏実が揃ってこちらに向かって駆けて来るのが見えた。

瑠璃子はもう一度、波が激しく打ち寄せる海面を見下ろした。
…涼ちゃんを探さなきゃ…。早く探さなきゃ…。

そのまま立ち上がり、ゆっくりと眼を閉じると両手を広げる。
強い潮風に、細い身体は吹き飛ばされそうだ。

「涼ちゃん…ごめん！今行くから…！」
瑠璃子の身体は一瞬ふわりと空に浮かび、やがて白い水飛沫を上げながら紺碧の波間へと落ちていった。