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恋する真珠
第1章 海と真珠
「…瑠璃子!」
…涼太の必死な声が思わぬほど近くから聞こえた。
同時に温かな空気が胸いっぱいに広がり、満たされた肺が全身に力を漲らせる。
…ゆっくりと呼吸するごとに瑠璃子の意識が次第に霧が晴れてゆくようにクリアになる。

…私…海底の世界にいるんじゃなかった…っけ?
…涼ちゃん…どこ…?

…そうだ!
涼ちゃんだ!

瑠璃子は長い睫毛を震わせ、必死で瞼を開く。
「…りょうちゃ…ん…しんじゃ…やだ…」
胸に溢れる切実な思いを言葉の欠片だけでもと絞り出す。

「ばかやろう!漁師ナメんな!
あんな浅瀬で誰が溺れるかよ!
水深2メートルねえぞ!
あんなの俺には水たまりだ!」
目の前で鼓膜に響くほどに怒鳴られて、激しく揺さぶられる。

…天使にしてはガラが悪すぎる…。
「…へ…?」
うっすらと瞼を開けると、睫毛が触れ合いそうな距離に涼太のブロンズ色の猛々しいまでに凛々しい貌が瑠璃子を睨みつけていた。
安堵感が強張っていた瑠璃子の身体を、じわじわと押し包む。

「…涼ちゃん…良かった…。
ごめんね…涼ちゃん…ごめ…ん…」
泣きじゃくりながら詫びる瑠璃子の身体が掬い上げるように、強く強く抱き竦められた。
「…ばかやろう…ばかやろう…」
「…涼ちゃん…ごめん…ごめ…」
…そうじゃねえよ…。
と、もどかしそうに凛々しい眉を歪め、瑠璃子の濡れた貌にこわごわと大きな手が触れる。
「…俺は…口に出すのが怖いくらいにお前が好きなんだよ…。
お前が可愛くて可愛くて…仕方ねえんだよ…。
それが…なんでわからねえんだよ…!」
「…涼ちゃ…?」
涼太の貌を覗き込む瑠璃子の視線を避けるように更に深く抱き締める。
「…大好きだ…!
お前は俺の大切な宝物なんだよ…!」
振り絞るように耳元で告げられ、全身の力がへなへなと抜けてゆく。

「…やっぱり…」
「え?具合い悪いか?瑠璃子?」
慌てて力を緩める涼太に、弱々しく首を振る。
「…やっぱり…私、死んじゃったのかな…?
涼ちゃんが…そんなこと言うはずないもん…」
涼太は荒々しい海賊めいた貌をくしゃくしゃにして笑った。
「…ばかやろう…」
涼太の睫毛から一雫、小さな水滴が瑠璃子の唇に滴り落ちた。
…塩辛いそれは海水のようでもあり、涙のようでもあった。
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