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恋する真珠
第2章 恋するカナリア
「…私は由貴子さんのご意見とは少し違いますね。
学業と恋愛は両立できるでしょう。
もしかしたら奥様業もね。
大切なのは二人の愛の強さと深さですよ」
由貴子が淹れた翠玉茶を美味しそうに一口含み、朱は流暢な日本語で口を開いた。

「朱先生〜!いい人〜!」
飛びつかんばかりに朱に擦り寄る。
すると朱は、女にしたいような艶めいた美貌を近づけて、その白く白磁のようになめらかな指で瑠璃子の顎を持ち上げた。

「…本当に綺麗で可愛らしいお嬢さん…。
どこもかしこも清潔で穢れを知らない…。
まだこの世の醜いものも恐ろしいものも何も映してはいない澄んだ美しい瞳をして…。
…こんなにも清らかで美しい瞳が、いつかは恋の哀しみから涙を流す時が来るのでしょうか…」
「…え?」
瑠璃子の大きな瞳が見開かれる。

「…朱先生…。およしになって…。
瑠璃子が怖がりますわ」
やんわりと、由貴子が嗜めるのを朱はふわりとした春風のような微笑みで受け流した。

「瑠璃子ちゃんが大人の恋の哀しみから涙を流されるお姿は、きっとため息が出るほどに綺麗だろうと思いましてね…」
朱は音も立てずに立ち上がり、窓辺に吊るした緻密な銀細工が施された鳥籠に近づいた。
…その芸術品のように美しい鳥籠の中には、一羽のレモンイエローのカナリアが賑やかに囀っているのだ。

「…瑠璃子ちゃんはさながらこのカナリアですね。
美しく無邪気で可愛らしく…見る人の眼と耳を愉しませる。
…けれどこのカナリアは、まだ恋の唄を知りません」
朱は鳥籠の引き戸を開け、その白く美しい手にカナリアを乗せた。

「…本当の恋を知った時、このカナリアはどれほど切なく哀しく…そして美しい唄声を奏でるのでしょうか…」

朱の手が舞を舞うようにゆっくりと弧を描く。
カナリアは開け放たれたバルコニーの外に向かい、躊躇いもせずに飛び立った。

「…あっ…」
瑠璃子は思わず声を上げた。
…上海の青い夏空の向こうに、カナリアは溶け込むように翔び去った。

「…籠の中では、本当の恋はできないのです。
…カナリアも…女の子もね…」
そう言って、朱は謎めいた…それでいて温かな笑顔で笑ったのだった。

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