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恋する真珠
第2章 恋するカナリア
「…なんだか意味深だったなあ…」
瑠璃子は荷造りする手を止めて、呟いた。
「朱先生?
気にしなくてもいいのよ。
先生は言葉遊びがお好きなの。
…貴女を揶揄ったのよ」
由貴子が人形のように端麗に整った切れ長な瞳で笑った。

…由貴子は会うたびに美しく若々しくなる。
透き通るように白い肌はしっとりと艶やかでしみひとつない。
整った目鼻立ちは匂い立つような色香に溢れ…その美しさと、ひんやりと内に秘められた官能性には娘の瑠璃子でもどきりとする。
自分の母親ながら空恐ろしくなるほどだ。
…以前の由貴子は欠点がないほどに整った美貌の持ち主だったが、色香とは無縁な清廉な近寄りがたい雰囲気が漂うひとだった。
…でも、今は…。

四十代半ばに差し掛かったとは思えぬほどに瑞々しく妖艶な艶を溢れさせていて、きらきらと眩しいほどだ。

…ママはとても幸せなんだな…。
瑠璃子はほっとする。
まだ若い頃に夫を亡くし、あの広く古い家を維持し、茶道教室を続け、一人娘の自分を必死に大切に育ててくれた。
…それなのに、自分は思春期に不登校や引きこもりや自殺未遂を起こし、さぞかし由貴子を悲しませ苦しまさせたことだろう。
血の繋がらない息子の柊司に、秘めたる恋心を抱いていたことも知っている。
だから、由貴子が宮尾とめぐり逢い、女としての幸せを掴んだことは瑠璃子を心底安心させたのだ。
…真紘さんが優しくて誠実な人で良かった。
ママは本当に真紘さんに愛されているもの。

宮尾が由貴子を見つめる眼差しは唯一無二の愛おしい恋人を見つめるそれだ。
普段の宮尾は穏やかで静かな雰囲気を湛えた紳士だが、由貴子に対してはその眼差しの温度はとても熱い。
瑠璃子の前では距離を置き、決してべたべたしたりはしない。
けれど、眼は口ほどにものを言う…という言葉がいかに真実かを瑠璃子は初めて知ったのだ。

「…真紘さん。
ママを愛している?」
尋ねると間髪を入れずに彼は答えた。
「うん。自分の命よりも…」
きっぱりと迷いのない愛の言葉であった。

瑠璃子はふと思った。
…涼ちゃんは…真紘さんがママを愛するように、私を愛してくれているのかな…。

急に不安に襲われる。
…なぜなら、涼太との関係は十四歳から全く変わってはいないような気がするからだ。



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