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恋する真珠
第2章 恋するカナリア
「…瑠璃ちゃん。涼ちゃんとキスしたの?」
「え?な、なんで分かるの?」
吃驚して振り返る瑠璃子にいつものもの静かな微笑みで、澄佳は答えた。
「分かるわよ。
瑠璃ちゃんは今夜、ぼんやりしているし…。
…涼ちゃんは帰りがけに会ったけど、いつもの涼ちゃんじゃなかったわ。
…嬉しいような切ないような…でも幸せそうな貌をしていた」

…さっさと自分に背を向け、店をあとにした涼太の後ろ姿が脳裏に蘇る。
…涼ちゃん…。

「…瑠璃ちゃんは…涼ちゃんとのことを焦っているの?」
「え?」
「なんだかそんな気がしたから…」

…澄佳さんは何でもお見通しなんだな…。
瑠璃子は脱帽した。

「…うん。そう。
私、涼ちゃんのこと、大好きなの。
早く涼ちゃんの本物の恋人になりたいのに、涼ちゃんは大人になるまでだめだって…。
でも、私は涼ちゃんのこと、もっともっと知りたい。
涼ちゃんの全部を知りたいの。
…私、いやらしい子かな?
そんなことばかり考えちゃうなんて…」
羞恥に俯く瑠璃子の髪を、澄佳の優しい手がそっと撫でる。
「そんなことないわ。
好きなひとに身も心も捧げたいと思うのは当然よ。
ううん。とても美しいことだと思うわ」
「澄佳さん…」
澄佳がその美しい瞳を切なげに細めた。
「…少し、瑠璃ちゃんが羨ましい…。
…私も…初めては柊司さんに…」
…言いかけて、その儚げなまでに美しい貌がやや寂しげに曇った。

「澄佳さん?」
「…なんでもないわ」
ふっと頭を振り、打って変わって和やかに笑いかける。

…玄関先で、ひとの気配がした。
「…お帰りになったわ」
澄佳の声が、快活に弾み出す。
しなやかに立ち上がり、行きしなに振り返った。
「これだけは言えるわ。
涼ちゃんは瑠璃ちゃんを本当に愛しているわ。
だからこそ、瑠璃ちゃんが大人になるのを待っているのよ。
信じてあげてね」
そうして優しい微笑みを残して、澄佳は柊司のもとに向かったのだ。

…夏の夕暮れの仄暗さに満ちた縁側には、瑠璃子と…澄佳の古風な香の薫りのみが残された。



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