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恋する真珠
第2章 恋するカナリア
…財前は大学を卒業後、家業の和菓子屋「多家良や」の取締役のひとりとして就任していた。
長男、次男は職人肌であり、経営への興味が薄かった。
昨年、財前が「多家良や」の取締役に名を連ねたのを機に事実上、中枢のポジションを彼らは兄弟一の秀才で経営センスに恵まれた三男の財前に譲ったのだ。

「…財前さん。
今日は?」
「横須賀の料亭で百貨店のお偉いさんたちの接待だ。
瑠璃子ちゃんはバレエのお稽古帰り?」
「はい」
「…そう。
今度の発表会は何を踊るの?」
「ブルーバードのフロリナ王女です」
バレエに詳しい財前は感心したように頷いた。
「ほっそりして清楚な瑠璃子ちゃんにぴったりだね。
あの青い衣装も似合うだろうなあ」
…それにしても…
と、瑠璃子をじっと見つめ…
「相変わらず美人だね。
…いや、すごく大人っぽく…ますます綺麗になったね」
眩しげに眼を細める財前に、瑠璃子は曖昧に少し笑った。

…財前とは付かず離れずの間柄だ。
大学卒業と同時に「多家良や」は横須賀に支店を出したので、たまさか駅前やフェリーで遭遇することがあった。
そんな時は他愛のない話をする。
横須賀の文化ホールで毎年行われるバレエの発表会には必ず観に来てくれる。
抱えきれないほどの豪華な紅い薔薇の花束と共に…。

あれからあけすけに告白することはなかったが、どうやらまだ瑠璃子を好きでいるらしいことも薄々分かってはいた。

「あの和菓子屋のイケメン御曹司、瑠璃ちゃんにメロメロだね。
瑠璃ちゃんが踊ってる時、火傷しそうな眼で瑠璃ちゃんを見つめていたよ。
いいなあ、瑠璃ちゃんは…。
アリにコンラッド…。よりどりみどりじゃん!」
バレエの海賊になぞらえて、麻衣はそういたずらっぽく笑ったものだ。


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