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第2章 記憶

「大丈夫。そんなに待ってねぇから」
「あー、よかった。一応走って来ちゃった」

女性の声がだんだんこちらに近づいてくる。

あー、どうしよう、何を話そう。
つーか、何て言えばいい？
「いらっしゃい」じゃ、フランク過ぎるな。
「初めまして」じゃ、堅すぎるな。

何か…、これまでに会ってきたどの会社の社長より緊張するのは何でだ？
後輩の彼女だからか？
粗相があっては北条に申し訳が立たない。
何だって後輩の彼女にまで気を使わねぇとなんねぇのか…。

緊張のせいで高鳴る心臓。
しかし、俺の緊張が解れるのを待たず、その女性は俺の目の前に姿を現した。


「初めまして―――――」
「あ――――」







その時、俺の脳内は一瞬、遠い遠い過去にタイムスリップしたような気がした。

北条の彼女を見た瞬間、何とも言えない懐かしい気持ちに襲われたのだ。
そんな不思議な気持ちに襲われ、声も出せずに、まるで凍り付いたかのように動けなくなってしまった。








「小川さん。俺の彼女の香田 彩花です」











黒くて艶のある長い髪。
真っ白な肌。
その表情は柔らかく、とても北条の彼女とは思えない程に素朴な雰囲気。
真っ白なシャツに黒のタイトスカート姿。

でも、この子、どこかで…。



「香田彩花です。いきなりお邪魔してしまってすいません」
「あ、いや…」

俺はハッと我に返った。
あれ…、今の感覚は何だったんだ？
今、一瞬、凄く懐かしい気分になったのだが…。
あれは、気のせいか。
俺は北条の彼女とは今ここで初めて会ったのだから。