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昼想夜夢~君、想ふ~
第9章 臨界点
仕事に集中して、しばらく彩花の事を考えないようにしようとしたのに
北条がそばにいると、まるで彩花がそばにいるような錯覚に陥ってしまう。

そう思っただけで、さっきまで考えていた宣伝文句が頭から消え去ってしまった。

「ちょ、ちょっと待てって…!」
「あ…っ」

北条はスマホの通話口を軽く手で多いながら部署内から出て行ってしまった。
ここにいては人の怒号が混じって会話なんて出来ないのだろう。

北条が走り去って行くのを横目で見ながらも、俺は必死に思考回路を立て直そうとしていた。



な、何やってんだよ、俺は。
後輩の電話に聞き耳立てて、仕事を疎かにして。
今は一分一秒を争うぐらいに忙しい時期だというのに。

彩花は北条の恋人で…、俺の出る幕なんか最初からなかったんだ。
なのに、俺がムリヤリ彩花を奪ったんだ。

俺がムリヤリ――――――…。














――――「だから、それは俺も悪いと思ってるって!」

階段の踊り場。
ここなら静かだし、人の声もそう簡単には届かない。
北条はそこでスマホを片手に誰かと喧嘩をしている。

いや、相手は恐らく彩花だろう。

「はぁ、いい加減にしてくれよ…」



…つーか、俺はマジで何をやってるんだ…。
自分で自分が情けない。
北条がいる階段の踊り場、その上の階の陰に隠れながら北条の電話を盗み聞きしている。

本当、いい趣味してるよな、俺。

北条の電話の相手が気になって仕事に集中出来なくなってしまった。
こんな事をしてる場合じゃないのに。

それに、北条の電話の相手は彩花じゃないかも知れないのに。

彩花の気配を感じただけで仕事が手に付かなくなる。
いや、仕事だけじゃなくて何もかもがどうでもよくなる。
末期症状だ…。

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