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昼想夜夢~君、想ふ~
第9章 臨界点
今までの俺を思えば、北条にドタキャンされ、弱ってる隙を突いて何かを企んでいると思われても仕方ないだろう。

つーか、余程驚いたのか、彩花はその場に立ち尽くし呆然とこちらを見つめている。
そろそろいい加減、俺の手から花束を受け取って欲しいんだけど?
ここまで花束を持って来るのだっていろんな人に見られて恥ずかしかったものだ。

「ま、俺からなんて嬉しくねぇだろうけど、受け取って貰えたら嬉しいんだけど」
「え?あ、うん…」

彩花はゆっくりと手を差し延べて、俺の手から薔薇の花束を受け取った。




今やっと、彩花の顔がまともに見れるようになった。
胸元まであった髪は、フェイスラインに添うようなボブになっていた。
真っ赤に染まった瞳に真っ赤な薔薇、この場面だけを切り取れば、まるで俺が彩花にプロポーズしたみてぇだな。

「………っ」

本当は誰よりも優しくしたい。
傷ついてる彩花にもっと優しくしてやりたい。
だが、それは俺の役目じゃない。
俺になんて慰められたくはないだろう。

これ以上、俺がここにいる理由ももうない。

「それ、いらなかったら捨ててくれていい」
「え…?」

これ以上彩花のそばにいたら、自分の立場を忘れてしまいそうになる。
彩花は俺の後輩の北条の彼女。

そして俺は…、彩花に憎まれている存在。

「それじゃ、用はそれだけだ」

俺は踵を返して彩花の前から立ち去ろうとした。
どれだけ北条を最低だと思っても、彩花はまだ北条が好きなのだろう。
目が真っ赤に腫れるぐらいに泣くほどに想ってるんだろう。

「あ、それと…」
「え…?」

俺からの花束に頭が付いていかないのか、彩花は花束を抱いたままその場に立ちすくんでいた。

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