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昼想夜夢~君、想ふ~
第11章 透明な悲鳴
北条が立ち去った屋上で、俺はぼんやりと騒がしい街並みを見下ろしていた。
空には鈍色の分厚い雲が広がっていた今にも雨が降りだしそうな天気。

肌をかすめる風もどこか冷たい。

「こっから飛び降りたら楽になれんだろうな…」

一人になった俺の口からは物騒な言葉が飛び出した。
ここから飛び降りても楽にはなれない。
何をどうしたって彩花は俺のものにはならない。
どれだけ欲しい欲しいと渇望しても、だ。


北条が彩花にプロポーズ…。
もし、彩花がそれを受けたら…、俺はもう、彩花に触れることすら許されない。
彩花はもう、北条だけのものだ。
それを考えた瞬間


――――――っ!


強く握った拳の中で、爪が手のひらの皮膚に食い込むのがわかった。
うっすらと滲む血。
でも、痛さなどどうでもよかった。
頭の中の血液が沸騰したみたいに熱い。







ぶち壊したい、何もかも。
北条の幸せそうな表情も、彩花に待ち受ける北条との幸せな未来も、何もかも。

俺は完全に正気を失っていた。
冷静さを欠き、本能の赴くままに身を任せてしまったのだと思う。

内ポケットからスマホを出し、彩花に電話をかけていた。
まだそばに北条がいるかも知れないのに、そんな事はお構いなしで彩花に電話をかけた。


時間的に、彩花はまだ家にいるだろう。
恐らく出勤準備でもしているのだろう。
俺からの着信とわかれば、無視される可能性もあるだろうが


逃がさない。
今だけは、絶対逃がさない…。


「……っ!」

スマホを耳にあてると、呼び出し音が聞こえる。
拒否はされてないようだな。




RRRRRR…、RRRRRR…、RRRRRR…。





いつもなら何とも思わない呼び出し音が、今日はやけに長く感じて焦れったい。

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