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続・独占欲に捕らわれて
第5章 策士愛に溺れる
「すごいなぁ、ここ。絶版された本もたくさんある。レスリー・チャータリスなんて、中学で読んで以来だよ」
本を抱えながら、紅玲は嬉しそうに戻ってきた。
「レスリー……? その、なに?」
千聖が小首を傾げると、紅玲は笑った。
「レスリー・チャータリス、ね。昔の小説家だよ。短編集にこの人の小説が入ってて好きになったんだけど、この人の小説は図書室にはそれしかなかったし、調べてみたら絶版されてたから……。まさかまた読める日が来るだなんて思わなかったよ」
そう言って紅玲は、表紙を愛おしげに指先でなぞる。
「そう、それはよかったわね。私もなにか探してくるわ」
「うん、いってらっしゃい」
千聖は席を立ち、店の出入口付近の棚から見て回る。本に明るくない千聖には、名前だけ知っている文豪の本は手が出しづらく、タイトルだけ知っている本はどうしても躊躇してしまう。
(本の話をしている紅玲、とっても楽しそうだったわね。好きな作家さんができたら、もっと紅玲と話せるようになるのかしら?)
楽しそうに本の話をする紅玲を思い出しながら、彼と同じように背表紙をなぞっていく。千聖の指は、黒い背表紙の本で止まった。
「トカ……?」
“徒花”という字の読み方が分からず、小首を傾げながら本を手に取る。表紙は真っ黒な背景に1輪の彼岸花。千聖はその本を持って席に戻る。
本を広げると、章のタイトルが並んでいる。1章のタイトルは、この本の作者と同じ名前だ。
(私小説ってやつなのかしら? それともナルシスト?)
千聖は不思議に思いながらもページをめくる。主人公の男性はあまり愛想の良くない人間嫌い。女性のような容姿と声にコンプレックスを持っている彼は、友人に祭りに誘われても乗り気ではないが、結局菓子につられて行くことになった。
1章を読み終えたところで、店主がふたりの席へやってくる。
「読書中失礼します。アールグレイと、エスプレッソです。パンケーキはもう少しで焼き上がりますよ」
店主はそれぞれの前に飲み物を置くと、一礼して下がった。
本を抱えながら、紅玲は嬉しそうに戻ってきた。
「レスリー……? その、なに?」
千聖が小首を傾げると、紅玲は笑った。
「レスリー・チャータリス、ね。昔の小説家だよ。短編集にこの人の小説が入ってて好きになったんだけど、この人の小説は図書室にはそれしかなかったし、調べてみたら絶版されてたから……。まさかまた読める日が来るだなんて思わなかったよ」
そう言って紅玲は、表紙を愛おしげに指先でなぞる。
「そう、それはよかったわね。私もなにか探してくるわ」
「うん、いってらっしゃい」
千聖は席を立ち、店の出入口付近の棚から見て回る。本に明るくない千聖には、名前だけ知っている文豪の本は手が出しづらく、タイトルだけ知っている本はどうしても躊躇してしまう。
(本の話をしている紅玲、とっても楽しそうだったわね。好きな作家さんができたら、もっと紅玲と話せるようになるのかしら?)
楽しそうに本の話をする紅玲を思い出しながら、彼と同じように背表紙をなぞっていく。千聖の指は、黒い背表紙の本で止まった。
「トカ……?」
“徒花”という字の読み方が分からず、小首を傾げながら本を手に取る。表紙は真っ黒な背景に1輪の彼岸花。千聖はその本を持って席に戻る。
本を広げると、章のタイトルが並んでいる。1章のタイトルは、この本の作者と同じ名前だ。
(私小説ってやつなのかしら? それともナルシスト?)
千聖は不思議に思いながらもページをめくる。主人公の男性はあまり愛想の良くない人間嫌い。女性のような容姿と声にコンプレックスを持っている彼は、友人に祭りに誘われても乗り気ではないが、結局菓子につられて行くことになった。
1章を読み終えたところで、店主がふたりの席へやってくる。
「読書中失礼します。アールグレイと、エスプレッソです。パンケーキはもう少しで焼き上がりますよ」
店主はそれぞれの前に飲み物を置くと、一礼して下がった。