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続・独占欲に捕らわれて
第5章 策士愛に溺れる
「チサちゃんはなに読んでるの?」
紅玲はエスプレッソをひと口飲むと、千聖の手元に目をやる。
「なんて読むか分からないのよ」
千聖はしおりを挟むと、紅玲の前に本を置いた。

「これは“あだばな”って読むんじゃないかな」
「どういう意味なの?」
「むだばなとも読むんだけど、言葉の通りだね。普通植物って、種が残るものでしょ? でも徒花は種を残さず、枯れたらおしまい。表紙になってる彼岸花もそうなんだよ」
「悲しい花ね……」
本を返してもらうと、千聖は表紙の彼岸花にそっと触れてから、再び本を開いた。

男性は祭りで女性を介抱して羽織を貸すも、持病のぜんそくでかかりつけの診療所に運ばれてしまう。1日だけ入院し、退院すると女性が羽織を返しに来る。ふたりは交際して幸せな日々を送るが、女性は自分の素性をまったく明かさない。
(どうしてこの子は、自分のことを話さないのかしら?)
不思議に思っていると、いちごのパンケーキが運ばれてきた。写真で見るよりもボリューミーなパンケーキは、ご丁寧に2等分されている。
「とりわけ皿はこちらです」
店主は2枚の皿を置いてくれた。

「丁寧な人だね」
紅玲はパンケーキをとりわけ皿にうつしながら言う。
「えぇ、そうね。とても感じのいい方だわ」
「はい、どうぞ」
紅玲はいちごを振り分け終えると、千聖の前にパンケーキを置く。

「ありがとう」
さっそくひと口サイズにカットにて頬張ると、ふんわりしっとりした生地に頬が緩む。卵の風味といちごの酸味は相性バツグンだ。
「美味しい……」
「素晴らしい読書の友だね」
ふたりは時折パンケーキを食べながら、読書を楽しむ。

千聖が読み進めている徒花は、不穏な空気になってきた。性格の悪そうな中年女性と議員が現れたことによって、女性が名家のお嬢様だと知る。そして彼女の義母である中年女性は、娘はこの議員と婚約するから別れてほしいと手切れ金を渡す。男性は手切れ金を突っぱねるが、女性と別れると言う。男性は一方的に別れを告げ、女性は自害してしまうのだ。
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