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続・独占欲に捕らわれて
第3章 紅玲の取材旅行
夕方、仕事を終わらせた千聖は、寄り道せずにまっすぐ帰る。
「ただいま」
声をかけながら玄関を開けるが、返事はない。
「鍵は開いてたし、出かけてるってこともないわよね……?」
千聖は不自然に思いながらも、家の中に入る。ヒールを脱ぐついでに紅玲の靴を見るが、普段使いの靴は置いてある。

リビングに行くと、紅玲はソファに寝そべって本を読んでいた。
「ただいま、紅玲」
千聖が少し大きめの声で話しかけると、紅玲は躯を揺らして顔を上げた。珍しく黒縁メガネをかけている。
「あぁ、おかえり、チサちゃん」
紅玲は本に栞を挟むと、伸びをする。

「随分熱心に読んでたじゃない? なに読んでるの?」
出迎えがなかったのが寂しくて、ついトゲのある言い方をしてしまう。
「んー? グリム童話だよ。名前だけは聞いたことあるけど、ちゃんと読んだことないから読んでみたら面白くてさ。個人的には青髭がお気に入りかな」
不機嫌な千聖に気づかないのか、紅玲は無邪気に本の話をする。

「あ、洗濯物取り込まなきゃ……」
紅玲は千聖に触れることなく、リビングから出ていってしまった。
(なによ、いつもは帰ってきて早々首輪つけたりするくせに……)
千聖はむくれながら、先程まで紅玲が座っていた位置に座る。
「そんなに面白いものなの?」
テーブルに置いてあるグリム童話を手に取ると、目次を開いた。目次には“赤ずきん”や“ブレーメンの音楽隊”などといったメジャーな話もあるが、“ホレばあさん”や“ねずみと小鳥とソーセージ”など、聞いたことないタイトルも多々あった。青髭は最後の話らしい。千聖はさっそく、青髭を読み始めた。

話のあらすじはこうだ。森の中に3人の息子と美しい娘と暮らす男がいた。ある日大勢のお供を乗せた6頭引きの黄金の馬車がやってくる。馬車からどこかの王様が降りてきて、娘を欲しいという。申し分のない花婿に男は喜ぶが、娘は嫌がった。というのも、花婿の青ひげが恐ろしい。
「あ……」
そこまで読んで、紅玲に本を取り上げられてしまった。
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